重なる身体と歪んだ恋情
「ここにいたのですか、探しましたよ」
「……」
嘘つき。
私のことなんて欠片も気に留めていなかったくせに。
「先生と一緒とは。待ち合わせですか?」
「そんなっ」
「まさか、偶然ですよ。ねぇ桜井さん」
「……え、えぇ」
私の声を遮った先生の言葉は落ち着いていて大人。
そして知ってるくせに私を『桜井』と呼ぶなんて。
そっと見上げると奏さんの顔がほんの少し歪んでいるように見えた。
「彼女が気分が悪いとウェイターに水を頼んでいるところを見かけてね。あなたが来るまで一緒に居ただけです」
「……それは、ありがとうございます」
「妻である彼女がこんなにも顔色を悪くしているのに貴方はどちらへ?」
「――っ!?」
突然、毒を含んだ先生の台詞に驚いた。
だけど先生は真っ直ぐに奏さんを見据えて、奏さんもその視線を受け止めて。
「商談がありましたので。千紗さん、気分が悪いならそう言ってくださらないと他の方にご迷惑ですよ」
「す、みません」
変な汗が背中を伝う。
もうすぐ夏だというのに指先が冷たくなっていくのを感じるくらいに。
「そんなに気分が悪いなら帰りましょう、それでは先生」
「あ」
強く手を引かれて私は先生に別れの言葉も言えず、ただ振り返る。すると、
「またね、桜井さん」
先生はそう言ってニコリと微笑んでくれた。