重なる身体と歪んだ恋情
「いやぁ――!!」
とにかく着ているローブを脱いでその裾で穢れをふき取った。
何度も何度も肌が赤く擦り切れるまで。
「千紗様?」
ドアの向こう、如月の声が聞こえたけれど、
「入らないで!!」
身体の痛みなんてどうでもいい。
悲鳴を上げる身体を動かして真っ白な穢れていないシーツを身体に巻いて、ドアまで駆けて開けられないようにドアノブを掴んだ。
「誰もっ、誰も入ってこないでっ!!」
そう叫ぶともう一度「千紗様」と私の名前を口にする如月の声が聞こえた。
だけど如月だってこの家の使用人で、奏さんに雇われてる身で。
私の味方なんかじゃなかった。
零れる涙の理由が分からない。
だけど止めようがなくて……。
しばらくしてドアの前から人の気配が消えた。
きっと呆れていなくなったのだろう。
ゆらりと立ち上がってベッドの上に脱ぎ捨てたガウンを手にする。
そして穢れてしまったベッドシーツも剥ぎ取って、部屋の隅にあるゴミ箱に放り込んだ。
とてもすべては入りきることなんて無理で溢れた状態だったけど別に構わない。
それから部屋を見回す。
私の力で動かせるものは鏡台くらい。
だから、
「んっ」
それを引っ張ってドアの前に。
これでもう誰もこの部屋には入って来れない。
誰にも会わないで済む。
誰も、私に関わらないで。