重なる身体と歪んだ恋情
今夜も彼の帰りは早くて、


「お身体は大丈夫ですか?」

「えぇ、まあ普通には……」


同じような会話を繰り返す。

それでも時折、


「綺麗な薔薇の苗を手に入れました。今年は無理かもしれませんが来年には咲かせるよう郁に渡しておきましょう」


彼はそんな話をする。

そして、


「週末、アメリカ大使館の晩餐会に呼ばれました」

「え?」


久しぶりにそんな話も。


「仕事の関係上断ることも出来ませんので出席すますが……、どうされますか?」

「どう、って……」


私に選択肢があるの?

彼を見て大きく瞬きすると、彼は私の手首を見てそれからフイッと視線を逸らして、


「無理でしたら一人で行きますので」


ゆっくりとワインを口にした。

晩餐会。

いい思い出なんて……。


『しっかり捕まって――』


先生とのダンスだけ。

先生はいらっしゃるのかしら?

今思い返せば、私の初恋は先生なのかもしれない。

ふとそんな考えが過ぎった。

だとしても、もうどうしようもないし先生をまた巻き込むのも嫌だから。


「またの機会に……」


手首の包帯を隠すように手で隠してそう言うと奏さんは「分かりました」とそれ以上はなにもわなかった。

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