重なる身体と歪んだ恋情
死ぬのかもしれない。

漠然とそう思った。

だって逃げる手段が思い浮かばない。

階段はここしかなくて火は下から燃え上がってきて。

そしてペンダントは欄干にぶら下がって火に囲まれて私の手には届かない。

だけど、私の心は妙に落ち着いていた。

ぺたりと床に座って迫る炎を眺める。

このままここに座っていたら私はこの炎にまかれて死ぬだろう。

そんなことが容易に想像できるのに、動くことも出来ない。

バチバチと音を立てる炎をじっと眺めていると、


「千紗さんっ!」


声が聞こえた。

その声はすぐに大きくなって、


「千紗っ!!」


燃え盛ってる階段の踊り場に彼の姿まで見えた。


「……な、んで」

「何をしてるんだ! 早くこっちへ!!」


私に伸ばされる手。

それは伸ばしたって届きそうに無い。

何よりも目の前の炎が邪魔で。


「無理……」


フルフルと首を振ると勝手に零れだす涙。

何が悲しいのか分からないけど、どうして泣いてるのかも分からないけど、涙が溢れて止まらない。

すると彼は着ていたタキシードをバサッと大きくゆらして、


「何をしてるんです!!」

「……」


火の柵を越えて私の傍までやって来た。


「早く立ちなさいっ!」

「あっ」


腕を強く掴まれて立たされる私。だけどこのままここを立ち去ることは出来なくて。


「やっ」

「なにがあると――」


火の中に手を伸ばす私に彼の台詞が止まる。

だって、あのペンダントを返さなきゃ――。

私は幸せになんてなれないけれど、お祖母様を幸せにしてくれるペンダント。

簡単に燃えてなくなっていいものじゃない。


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