重なる身体と歪んだ恋情
「これか」
奏さんはそう小さく呟くと、
「――っ!!」
「やっ、止めてっ!!」
欄干に引っかかったペンダントを掴んだ。
その瞬間、ジュッと嫌な音が聞こえて奏さんの顔が苦痛に歪む。
「離してっ! お願いっ、離して!!」
彼の腕を掴んでそう言うのに彼はその手を広げたりせずそのまま欄干から引きもいだ。
彼の袖には火が移っていて。
「嫌っ! 嫌ぁ――!!」
彼が手にしていたタキシードでその腕を叩いて火を落とす。
そのタキシードは十分に水を含んでいて、火はすぐに消えてくれて。
ホッと息を付いた私に、
「ここから逃げますよ」
彼はそう言うとペンダントを持っていないほうの手で私の腕を掴んで、火の回っていない私の部屋へ小走りに向かった。
ドアを閉めてそのまま窓の近くへ。
「司!」
「奏っ! ――千紗様っ!!」
「階段は無理だ。ここから降りる!」
その声に窓の下、如月が頷く姿が見えた。
そしてそんな間にも火はドアに燃え移ったらしいく。
めりめりと嫌な音をさせて、ドアの下にある小さな隙間からどす黒い煙が入り込む。
「最初の予定ではカーテンを引き裂いて貴女を抱いて降りるつもりだったんです」
私の方を掴んで奏さんがそう説明する。
「だけど、それは無理だ」
「どうし――」
どうして、なんて。
彼の手を見れば分かる。
ペンダントを握ったままの手からはひどく嫌な匂いがして。
「――手をっ、手を見せてっ!!」
「いいから、私の話をよく聞いて」
「だ、だって」
「大丈夫です」
「……奏さ、ん?」
こんな状況なのに、奏さんはとても優しい笑みを私に見せた。