重なる身体と歪んだ恋情
残された私たちには沈黙があって。


「なにか?」


そう聞く奏さんに「なにも」と答えた。

確かに大野先生の会社は競合で、仕事を奪い合うのは当たり前で。

もしかしたら先生はそのために私に近づいた?

そんな考えさえも浮かんでくる。

だって、あの家に私が居ることだって先生はしてたはずだ。

なのに火をつけて……。

そこまで先生は追い込まれたということなの?

奏さんに。

だけど元をただせばすべて私が原因な気がして。

もしかしたら自意識過剰なのかもしれないけれど、切っ掛けになったのは確かで。


「部屋に、戻ります。奏さんも気をつけて」


そう言うと奏さんも「千紗さんも」と私を見送った。


部屋まで歩きながら考える。

だけどどんなに考えても答えなんて出てこなくて。


「如月」

「はい」

「先生とお話をしたいの。奏さんには内緒で」

「……」

「ダメ、かしら?」


足を止めて如月を見上げる。

如月はひどく困った顔をして、


「どうしても?」


私に聞き返した。


「どうしても」

「なぜ?」

「先生に、確かめたいことがあるの」

「……」


すると如月はため息のような息を吐いて、


「上手く行く保障はしません。そして上手く行ったとしても私が同席すると言うのが条件です」


そう言ってくれた。
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