重なる身体と歪んだ恋情
階段はまだすべてが焼けているわけではない。
燃えているのは絨毯部分だけで、踊り場も割れたガラスの上には炎が無い。
もしかしたら階段で逃げられるかもしれない。だから、
「千紗っ!」
名前を呼ぶと、
「……な、んで」
私に気付いたくせに呆けて動かない千紗。
「何をしてるんだ! 早くこっちへ!!」
こちらに来るように手を伸ばしたのに彼女は小さく首を振るばかりで。
だから濡れたタキシードを頭から被って火の中をくぐって2階に駆け上がった。
喉が焼けるように熱い。
炎は私の肌に触れないまでもチリチリと焼いていくようだ。
何とか彼女の元へたどり着いたのに彼女は呆けるように私を見上げるだけ。
「何をしてるんだ! 早くこっちへ!!」
手を引く私に千紗は動こうとしない。
「なにがあると――」
苛立たしげにそういえば彼女の視線の先には欄干に引っかかったなにかがあって。
これが逃げ遅れた原因なのだろう。
もしかしたらあの男からの贈り物なのかもしれない。
だとしても構わなかった。
手を伸ばして握る。
ジュッと肌が焼ける音がした。
「離してっ! お願いっ、離して!!」
彼女の悲鳴にもそれを離すことはせず、欄干からもぎ取った。それはペンダントで。
取る際に私の袖に移った火を千紗は叫びながら消してくれた。
そうしてる間に階段は火の海と化してしまって。
「ここから逃げますよ」
まだ火の回っていない彼女の部屋へ。
下を見れば司が私たちを待っていた。
そこからは司の計画通り、カーテンを引きちぎってロープ代わりに。
本来なら私が彼女を抱いて降りるところだったがそれは無理になってしまったから。
怯える彼女に、
「大丈夫、下に如月がいます。絶対に大丈夫ですよ」
そう微笑んで、彼女を降ろした。
「千紗様っ!」
如月の腕に嵌る千紗。
その光景に胸が痛むのを感じた。