重なる身体と歪んだ恋情
「まぁ、なんて懐かしい!」
そんな声に千紗の顔が緩んでいく。
「これはやはりお祖父様とお祖母様なのですね」
「えぇ! 写真だなんてどうしていいか分からなくて。でもあの人がどうしてもって言うから。瞬きもダメだって言われたのよ?」
女性というのは不思議なもので、昔を思い出すと途端に昔に帰る。
もはや60を過ぎてるというのに彼女はまるで少女のように頬を染めて昔を語りだした。
それを楽しそうに千紗が聞く。
「あ、それとお手紙も入ってました」
「あら」
手紙といっても紙切れといってもいいくらい小さく焦げてしまったそれを彼女は大切そうに受け取ってその文字をひとつひとつ読み取っていく。
「……あの人らしいわ」
これ以上私がここにいるのは無粋と言うもの。
感慨に浸る彼女達を置いて私は静かに病室を出た。
一人、病院の外に出て手にしたメモを眺める。
そのメモは先ほどあった権利書などを一覧にしたもの。
このうちのどれだけが有効なのかは分からないが、それでもこれだけあれば金の工面は何とかなるだろう。
けれどこれで問題が無くなったわけじゃない。
千紗はもはや桜井の人間ではなく、桜井の当主はいまだあの馬鹿息子。
桜井家の遺産を動かそうとすれば彼の承諾なり印鑑なりが必要になるわけだが……。
影武者でも立てるか?
そしてその相続をすべて千紗に譲らせる、とか。
それにしても、彼はどうしているのか。
借金取りに追われているのは分かっていたが消息を絶ってしまうとは。
本当にどうしようもない義兄だな。