重なる身体と歪んだ恋情

「千紗に聞かれたく無い話なのですか?」

ロビーにある椅子に座ると司は小さく頷き私の隣へ座る。


「桜井家の御当主が見つかりました」

「!?」


驚く私に司はまたも小さく頷く。


「それなら話が早い。いかに思慮が足りない御仁だとて自分の家がなくなる寸前。すべての書類に捺印させて――」


当然のことを口にする私に、司はさっきまで縦に振っていた首を横に振った。


「無理でしょう」

「……なぜ?」


署名捺印されるだけだ。どんなに馬鹿だとしてもそれくらい――。


「彼は今、病院です」

「危篤、とか?」


それならそれで有り難い。

そうなれば桜井の家に対し権限があるのはあの老婆だけ。

なのに、司はやはり首を振り神妙な顔をする。


「どういう……?」


ことなのか。

私の質問に司は一度目を伏せ、そして――、


「阿片中毒です」


予想もしない結末を口にした。


「阿片……」

「はい。緑川が面識あるため面接に行きましたが……」


また司はふるふると首を振る。

会ったことのある緑川を彼は認識しなかったらしい。

それどころか一日中部屋の隅で怯えてるんだとか。

本当に、どうしようもない御仁だ。
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