重なる身体と歪んだ恋情
「お願い、でございますか?」
聞き返す声に「はい」と答える。
これはお願い。
「私は桐生家を出ますから、奏さんと一緒になってください」
だって、彼には佐和子さんが似合うから。
私ではダメだから。
「……どういう意味でしょう?」
「そのままの意味です。私ではダメなんです。彼が愛しているのは――」
「奥様ですよ」
その声に無言で首を振った。
だって違う。
彼は私を愛してなんかいない。
「何を勘違いなさっているのかは分かりませんが、私と桐生様とは仕事でしか会うことはありません」
「白檀……」
「え?」
「白檀の香りが、いつも彼に移ってました」
「……」
「きっと彼には貴女のような人がお似合いなんです。私なんて公家の出と言うだけで……」
これ以上言ってしまうと涙が出てきてしまいそうで、私は唇をぐっと噛み締めた。
「白檀は、この店の玄関でもたまに焚きますのでそれが移ったのでしょう」
嘘。
「桐生様はいつも奥様を自慢しておいでですよ?」
嘘。
「こんなに可愛い奥様でしたら自慢した気持ちも分かりますけど」
「嘘っ! 自慢なんてしない! するはずがないもの!!」
「奥様?!」
「奏さんは私なんて愛してないからっ! 絶対に違うからっ!!」
「千紗様!!」
「私は彼に愛されてなんかっ」
「お腹のお子に触ります!! 落ち着いてっ!!」
「――っ」
ギュッと手を握られて、お茶が零れていることに気がついた。
「ご懐妊、されたのですね?」
その言葉に、身体中の力が抜けるのが分かった。
「落ち着いて。もう一度お茶を入れますから」
佐和子さんはそう言って一度部屋を出ると新しいお湯を持って来て、またお茶を入れなおしてくれた。
すいっと前に出されて、私はそれにそっと口をつける。
温かい液体が体の中に入ってきて、代わりに目から涙が零れてしまった。
「きっとご懐妊されて、気持ちが不安定になってらっしゃるのですね」
違う。
そんなんじゃ――。
「桐生様は、それは貴女を大切に思っていらっしゃいます」
「……違」
「そうでなければ、火の中に居る貴女を自ら助けになんて」
「この子が、欲しいだけで……」
そう言ってお腹に手を当てた。
まだ、いるかどうかも分からない奏さんの子。
「少し、お話になられたほうがいいと思います。失礼ながら奥様は奏様のことをしらなすぎる」
「……え?」
遠くから聞こえてくる足音。
それはどんどん近くなって――。
「佐和子っ、千紗が――」
乱暴に開けられる襖から、奏さんが現れた。
聞き返す声に「はい」と答える。
これはお願い。
「私は桐生家を出ますから、奏さんと一緒になってください」
だって、彼には佐和子さんが似合うから。
私ではダメだから。
「……どういう意味でしょう?」
「そのままの意味です。私ではダメなんです。彼が愛しているのは――」
「奥様ですよ」
その声に無言で首を振った。
だって違う。
彼は私を愛してなんかいない。
「何を勘違いなさっているのかは分かりませんが、私と桐生様とは仕事でしか会うことはありません」
「白檀……」
「え?」
「白檀の香りが、いつも彼に移ってました」
「……」
「きっと彼には貴女のような人がお似合いなんです。私なんて公家の出と言うだけで……」
これ以上言ってしまうと涙が出てきてしまいそうで、私は唇をぐっと噛み締めた。
「白檀は、この店の玄関でもたまに焚きますのでそれが移ったのでしょう」
嘘。
「桐生様はいつも奥様を自慢しておいでですよ?」
嘘。
「こんなに可愛い奥様でしたら自慢した気持ちも分かりますけど」
「嘘っ! 自慢なんてしない! するはずがないもの!!」
「奥様?!」
「奏さんは私なんて愛してないからっ! 絶対に違うからっ!!」
「千紗様!!」
「私は彼に愛されてなんかっ」
「お腹のお子に触ります!! 落ち着いてっ!!」
「――っ」
ギュッと手を握られて、お茶が零れていることに気がついた。
「ご懐妊、されたのですね?」
その言葉に、身体中の力が抜けるのが分かった。
「落ち着いて。もう一度お茶を入れますから」
佐和子さんはそう言って一度部屋を出ると新しいお湯を持って来て、またお茶を入れなおしてくれた。
すいっと前に出されて、私はそれにそっと口をつける。
温かい液体が体の中に入ってきて、代わりに目から涙が零れてしまった。
「きっとご懐妊されて、気持ちが不安定になってらっしゃるのですね」
違う。
そんなんじゃ――。
「桐生様は、それは貴女を大切に思っていらっしゃいます」
「……違」
「そうでなければ、火の中に居る貴女を自ら助けになんて」
「この子が、欲しいだけで……」
そう言ってお腹に手を当てた。
まだ、いるかどうかも分からない奏さんの子。
「少し、お話になられたほうがいいと思います。失礼ながら奥様は奏様のことをしらなすぎる」
「……え?」
遠くから聞こえてくる足音。
それはどんどん近くなって――。
「佐和子っ、千紗が――」
乱暴に開けられる襖から、奏さんが現れた。