重なる身体と歪んだ恋情
「お早いお着きで。奥様がお話したいとかでお越しです」

「……あ、いや、千紗が倒れたと」


唖然と私を見下ろす奏さん。

私も呆然と彼を見ているとクスクスと笑う声が聞こえてきた。


「葛城で奥様が倒れるだなんておかしいと思いませんでした?」

「それは――、ちょっと待ってください。一体何がどうなって?」

「どうなったかは奥様にお確かめください」


そう言って立ち上がる佐和子さん。そして、


「あ、忘れてましたわ。おめでとうございます、桐生様。その折にはまた是非お祝い申し上げますので」


奏さんに一礼する佐和子さん。

そして、


「……どういう、ことですか?」


私と奏さんが残されてしまった。


「どういうって……」


私だって分からない。

なんでここで奏さんとふたりっきりに?


「泣いて、らしたのですか?」


私の前に座り、頬に残る涙を奏さんが指先で掬う。


「あ、これはっ」

「どうしてここに?」


うまい嘘が出てこない。


「……新橋の葛城」

「え?」

「そう、八重さんに聞きました」

「……」


帰ってこない答えに、落胆する自分を感じた。

否定も反論もしない。

やっぱりこれが事実。

だから、素直になろうと思った。

これが最後なら尚更。


「佐和子さんに出会えたのは偶然だけど必然だと思っています」


神様もそう思ったから、私と佐和子さんを合わせてくれたのかもしれない。


「だから、佐和子さんに桐生家に来てもらってください」


そう言いながら、涙が零れた。


「私とは、別れて――」

「嫉妬、してらっしゃるんですか?」


彼の言葉に、声が詰まった。

嫉妬。

そう、かもしれない。

愛されてる彼女に、私は嫉妬してる。


「……本当、に?」


確かめるような彼の言葉に肯定も否定も出来ない。

そんな私に小さく溜め息が落ちてくる。

呆れられても仕方ない。

子を産めばいいだけの私にこんな感情を見せ付けられても困るだけだ。

でも、最後だけは素直になりたいと思った。


「ごめん、なさいっ、でも、お願いだから、この子だけは私に、ください――」

「え?」

「もう、誰もいないのっ、だから、お願いだからっ」

「千紗? 今なんて――?」


グイッと彼の手が私の顔を掴んで上を向かせる。

涙で滲んだ視界に彼の驚いた顔が見えた。


「……あなたの子供は、私にください」


彼の愛はもらえなくてもいい。

でも、この子だけは欲しいと思ったの。

誰も愛してくれなくていい。

この子だけ、いてくれたら私は生きていけるから――。
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