重なる身体と歪んだ恋情
「社交界にデビューしてもどうしていいか分からないときに、助けてくれたのが貴女でした」


社交界?

私が助けた?

そんなこと、したことなんて――。


「やはり覚えていませんか。あの日、最初にダンスへ誘ってくれたのは貴女でした」


私が誘った――?


「あ、ワルツで飛んで……」


子供だった私と一緒に踊ってくれた誰か。

足を踏んでしまったのに彼は笑顔で私を高く抱き上げて――。


「なのに貴女は全く私を覚えていないし、記憶すら他の男にすり替えてしまって」

「え? 奏さんがあの時の!?」


すこしはにかむように笑う奏さん。

あぁ、この笑顔。

確かにあの時の彼と一緒だ――。


「婚約で貴女が私の名前を覚えていないことは分かっていました。でも、結婚式で顔を見せれば思い出してもらえると思っていたのですけどね」

「そ、んな! 名前なんて聞いてなかったし!」

「貴女のお父様とは何度も仲介に入ってもらって、だから勝手にご存知だと」

「……顔だって、あのころは私、子供で……」

「私はもう大人でしたけどね」


そう言って彼は私の涙を拭ってくれた。


「だから、貴女が思い出してくれるまで待とうと思っていました。けれど貴女は私から距離を置くばかりで、それで苛々してしまって、ひどいことを……」

「そ、んな……」


『愛されてるわね』

お祖母様の言葉が思い出される。

私、愛されてる――?


「謝ってすむことではありませんが、それでも私の子を産んでくださると?」

「……子供が、欲しいだけじゃ、なくて?」

「私が欲しいのは貴女の心です」

「身体じゃ、なくて……?」

「出来ればすべてが欲しい」

「私を、愛してくれますか?」

「既に神に誓ってます」


そういわれて、私は泣きながら笑ってしまった。

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