重なる身体と歪んだ恋情

ドレスの仕立て屋は彼の言うとおり本当に近くて歩いて10分ほどのところ。


「いらっしゃいませ。あら、如月様」


出迎えた女主人はそう言って如月に笑いかけた。


「今日はこちらのお嬢様? なんて可愛らしい。桐生様の守備範囲はとても」

「八重様。こちらは当家の奥様、千紗様です」


饒舌な女主人・八重さんの声を遮って小さく頭を下げる如月。

私がいくら子供でも分かるわ。

彼女の言いたかったことなんて。


「まぁ、そうでしたか。それは失礼を。わたくし、当店のオーナー八重と申します。お見知りおきを」


だから、丁寧にお辞儀をされても、


「えぇ、よろしくお願いするわ」


彼女に頭を下げる気にはなれなかった。


「それで今日はどういったものを?」


彼女が話しかけてるのは私じゃない。


「彼女に似合ったイブニングドレスを数点お願いしたい。桐生家の奥方様らしいものを」


そう説明する如月に八重さんは「ほほ」と上品な笑いを返す。

いいえ、とても上品とはいえないわ。

真っ赤な口紅が、あまりにも下品だから。
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