重なる身体と歪んだ恋情

「あら、如月様」


右の口の端にほくろのあるこの店の店主・八重。

奏様の好みと言うのは基本、こういった女性が多い。

外に出てひとり立ちした、強い女性。

その後ろ盾になるのが楽しいのか、奏様は彼女のような女性を好んで相手になさる。

問題のは、


「今日はこちらのお嬢様? なんて可愛らしい。桐生様の守備範囲はとても」

「八重様。こちらは当家の奥様、千紗様です」


誰もが勝気な性格、と言えばいいのか。

負けることを良しとしない人間ばかりだということ。

彼女達からすればこんな小娘……、もとい、お嬢様に彼を浚われるなんて思いもしなかっただろう。

それは私も同じ思いだが。



ドレス選びは私が口を挟む必要は無い。

生地からデザインから、八重が提案するものを千紗様は少し悩んで決めていく。

八重から見れば千紗様は『敵』とも言えないほど幼いか。

だから完全に彼女を『お客様』扱いで。

それには少しホッとした。

他の女性たちも八重のように振舞ってくれればいいが……。
< 73 / 396 >

この作品をシェア

pagetop