図書室で、恋。


「あ、悠太。お疲れ様!」

グラウンドから少し離れた自転車置き場で私はいつも悠太を待つ。

「おう、待たせたな。」

友達にじゃあな、と言って、荷物を自転車のカゴに置く。

「ふー、疲れた。」

私はいつも通りタオルを差し出す。

「ん、さんきゅ。」

日が傾いてきて、学校にはほとんど人はいない。

「よし、帰るか。」

「うん。」


帰りはいつも、自転車を引きながらゆっくり帰る。

2人の影が伸びる。
私はこれを見ることが何気に好きなんだ。

「でさぁ、明日のテスト不合格だったら授業後に補習だってよ。ったく、やってらんねぇっての。」

「あーあ、なら今夜は徹夜だね。」

「ほんと冗談じゃないぜ。毎日クタクタだってのに。」

「でも悠太、最近課題やってないでしょう?」

「…げ、なんで陽彩が知ってんだよ。」

「机の上の景色が変わってないもん。」

「かぁーっ、まじっすか。陽彩にはかなわねぇな。」

悠太は大きな声で笑いながら、頭をかいた。

「んもー笑い事じゃないでしょう?勉強もやらないとサッカーやれなくなるよ。」

「はいはーい。」

悠太は私をあしらうかのように手をひらひらさせて、前へと進む。

風に乗って香る制汗スプレーの臭い。

あぁ、夏がまた来たな、と思う。


家までの道のりがもっともっと長ければいいのに。

少し肌寒くなる初夏の夕方は、どうしてこんなにも切なくなるのだろう。

仲が良いはずなのに、悠太との距離がどんどん開いてしまうような、そんな思いに駆られる。


< 11 / 34 >

この作品をシェア

pagetop