図書室で、恋。
「あ、悠太。お疲れ様!」
グラウンドから少し離れた自転車置き場で私はいつも悠太を待つ。
「おう、待たせたな。」
友達にじゃあな、と言って、荷物を自転車のカゴに置く。
「ふー、疲れた。」
私はいつも通りタオルを差し出す。
「ん、さんきゅ。」
日が傾いてきて、学校にはほとんど人はいない。
「よし、帰るか。」
「うん。」
帰りはいつも、自転車を引きながらゆっくり帰る。
2人の影が伸びる。
私はこれを見ることが何気に好きなんだ。
「でさぁ、明日のテスト不合格だったら授業後に補習だってよ。ったく、やってらんねぇっての。」
「あーあ、なら今夜は徹夜だね。」
「ほんと冗談じゃないぜ。毎日クタクタだってのに。」
「でも悠太、最近課題やってないでしょう?」
「…げ、なんで陽彩が知ってんだよ。」
「机の上の景色が変わってないもん。」
「かぁーっ、まじっすか。陽彩にはかなわねぇな。」
悠太は大きな声で笑いながら、頭をかいた。
「んもー笑い事じゃないでしょう?勉強もやらないとサッカーやれなくなるよ。」
「はいはーい。」
悠太は私をあしらうかのように手をひらひらさせて、前へと進む。
風に乗って香る制汗スプレーの臭い。
あぁ、夏がまた来たな、と思う。
家までの道のりがもっともっと長ければいいのに。
少し肌寒くなる初夏の夕方は、どうしてこんなにも切なくなるのだろう。
仲が良いはずなのに、悠太との距離がどんどん開いてしまうような、そんな思いに駆られる。