学園怪談2 ~10年後の再会~
「……ミク? あ! もしかして!」
 びっくりしたように目を見開いたママは、慌てて台所に走り、小さなグラスをもう一つとってくると、ミクをパパの隣に座らせた。
「さあミク。パパにお酒をついであげなさい。それからあなたも少しだけもらおうか。あなたも前より少しお姉さんになったしね」
 ママの行動を呆然と見つめていたパパだったが、そこでハッ! と前にミクと話した事を思い出した。
『大きくなったら晩酌に付き合ってくれよ』
 ミクにそう約束した。ミクは生前、ママゴトを三人でする、ママと一緒に中辛のカレーを作る。そしてパパと一緒に晩酌をする……。この三つの約束をしていた。しかし、幼いミクにとって『晩酌』の意味は理解できず理解に至っていなかったのだ。
「……パ……パ」
 ミクはボロボロになった手でウイスキーのボトルを持つと、たどたどしくグラスにウイスキーを注いだ。
「……ミク……。お前は……俺との、そんな小さな約束を守るために……」
 ……涙が止まらなかった。死んでもなお、この世に留まり、自分のためではなく、家族のために約束を果たしたいと思った三歳の愛娘に対して、自分は何もわかってやれなかった。物心もついていないであろう娘が、約束を守ろうとボロボロになってまで頑張る姿に泣いて泣いて泣いた。
「うまい。うまいよミク。お前もちょっとだけだぞ? パパの晩酌に付き合ってくれ」
 パパはミク専用のグラスに少しだけウイスキーを入れてやると、乾杯をして飲み下すのを静かに見つめた。
 
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