ALONES
こう言う時は、あそこに行くしかない。
思い立つが否や、レイチェルはむくりと起き上がり、純白に煌めく愛剣を護身用に一本腰に携えた。
それから火が揺らめく燭台を片手に持ち静かに部屋を出ると、ひんやりと暗い廊下の突き当りまで進み、階段を何段も下る。
下り終えたら一番手前の角を右へ。すると礼拝堂のある塔の3階にたどり着く。
蝋燭の火が消えてしまわぬように、慎重に階段を下れば…直に礼拝堂が見えてくるだろう。
今日みたいに鬱憤とした気分の時は、礼拝堂で暫く心を休めるのが彼女の日課であった。
神にでも祈らなければ、やっていけない。
騎士とはそんな仕事だ。
足を進めていると、ぼんやりと明かりが見えてくる。
――礼拝堂だ。
もう夜も遅い為、人もいないだろう。
今日はゆっくりと祈れそうだ、そう……安心したのに。
「あーら。レイチェルじゃないの。こんな夜遅くに、どこへ行くのかしら、ねぇ?」
突如背後から声が響いた。
カツンカツンとブーツの音を立て、誰かが階段を降りてくる。
その音と共鳴するかのように、レイチェルの心臓は尋常じゃない程鼓動を速め、悲鳴を上げた。
うまく息ができない。足が震える。
レイチェルはこの声を、この気配を知っていた。嫌なほど知っているからこそ、体が言う事を聞かない。
敵だ、脅威だ。離れろ、剣を抜け。
脳が必死に指令を出す。
それなのに、トラウマに憑りつかれた体は動いてはくれなくて。