ALONES

――一閃。


間一髪、斬撃をよけたアストリッドの脇腹に、少しだけ切り傷が入った。


滴る血を指でからめ取りながら、アストリッドは笑う。



「なぁに?私を殺ろうっての?」



ゾクッと背筋に寒気が走った。

乱れた呼吸がさらに乱れ、絞められた首に食い込んだ爪痕が痛みを増す。


剣を持つ手が柄にもなく震えて、こうして体勢を整えているだけでも精一杯だった。



レイチェルに、彼女の狂気を止める事は出来ない。

否、今の私にはと思いたい。



「アンタには絶対無理よ、だって七光りだし、弱いし。今のうちに私が殺してあげるわ。惨めな姿晒して、許して下さいって言えば話は別だけど。」



最高の笑みをレイチェルに向けて、アストリッドは腰から黒く大きな剣を引き抜く。

爛々と気味悪く光る刀身は、何人の血を吸ったのだろう。



どす黒く陰湿な、彼女が持つにはぴったりの剣を、レイチェルに突き付け…アストリッドは言った。



「まぁ、あんたなんか許してあげるわけないけどねぇ!」



煌めく刀身がケタケタと笑い声を上げて振り下ろされる。



レイチェルは思う、ここで死ぬのかと。

まさかこの女に負けるのかと。


確かに自分は弱いだろう。

父の七光りだと言われても仕方がないだろう。



でも、この女に殺されるのだけは勘弁だ!
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