ALONES
「ふ、ざけるなぁぁああ!」
雷の様に叫び、恐ろしい速さで、レイチェルはアストリッドの斬撃を弾き返した。
――城内乱闘は、いかなる理由であれ罪となる。
上位騎士である二人も馬鹿ではない。
見つかればただ事では済まないだろう。
そんな事は分かっていた。
けれどもうこの感情を抑える事ができない。
―殺せ、殺せ、殺せ…コロセ!
階段を一気に下り、礼拝堂の前まで走るアストリッドを追って、レイチェルは剣を振り下ろし、交え、睨み合う。
神聖なる礼拝堂の前で騎士が二人殺し合いを始めようとしているのに、城は気味が悪いほど静かで、専属の神父や修道女さえも平和を信じて疑わない。
レイチェルは己が衝動のまま、何度も剣を振りおろし、薙いだ。
純白の刀身が、漆黒の剣に喰らいつき離さない。
アストリッドは、目を見開き唇を噛む。
何よこれ、何よこれ…!
気付けば圧倒的に自分が押され、目の前のレイチェルに恐怖すら感じていた。
真紅の聖女、そんな二つ名とはかけ離れた姿を今目前にしている。
開いた瞳孔は死をも喰らい、赤き閃光は矢の如く。
――このままでは殺される。
「っあ」
だが、逃げる間もなく、そしてこんな時に。
レイチェルの斬撃をかわす為に引いた足が、不意にもつれた。