ALONES
彼の登場は、予想外だった。
そして、最高にまずい事になった。
もし今起こった全てを見られていたのなら…一番敵に回したくない相手に尻尾を掴まれた事になる。
ただ、足を後ろに引く。
「先に剣を抜いたのは……その女よ、」
見苦しい言い訳だと分かっていた。
けれど悔しい。自分がここまで追い詰められるなんて。
「去れ。」
ランベールにもう一度釘を刺され、アストリッドは地に転がった剣を掴み…逃げるようにして暗闇に消えて行った。
その様子をしっかりと見届けた後、ランベールは今だ剣に力を込め続けるレイチェルに目を戻す。
どけ、と言わんばかりの鋭い眼光と荒い息遣い。
唸る彼女はまるで獣のように歯をむき出し、いつも顔に張り付いている冷静と言う仮面が、今や見る影も無い。
――昔を思い出す。
この表情をランベールは過去に数度見たことがあった。
彼女の父、ジークハルト・ラ・ヴァルニエが死んだ時と、アルヴァスティン・フォン・オルフィリアが孤島に送られた時。
そしてその二人にまつわる何かを言われた時だ。
レイチェルは桁外れに強い。
しかしその力は、あらゆる障壁を乗り越える度に増大し、自分でも制御できない程に育ってしまった。