ALONES
「少し怪我をしただけだ。軽くでいいから、手当をしてやってくれないか。」
ランベールの声を聞いているのかいないのか、修道女は「大変大変、」と声を上げ、手早くレイチェルの両手やら切り傷やらの手当てに取り掛かる。
その様子をじっと見つめたまま、レイチェルは虫のような声で言った。
「―…すみません。」
俯き、項垂れる彼女の姿はまるで魂を吸い取られた人形の様で、この豪華絢爛な礼拝堂には全く持って似つかわしくない。
けれどこの場でもレイチェルの存在感は圧倒的であった。
ランベールは思う。
彼女が騎士ではなく、普通の娘であったならばと。
ただの娘であればこんな思いをすることも無く、平穏に暮らし、恋をして…幸せな家庭を築けるだろうに。
それに、切り傷が付くのが勿体ないほどに彼女は美しく、繊細だった。
城の男たちが“真紅の聖女”と二つ名を付け、囃し立てるのも無理はないだろう。
下手をすればこの国で一番の美女になれるかもしれない彼女が、こんな汗臭く、陰湿で、血生臭い騎士団にいる。
そしてそんな彼女は自分達の手が届きそうな程近くに、いつもいるのだから。
ランベールは手当の終わったレイチェルの横に腰かけ、小さく息を吐いた。
何も話さず、何もしない。
そんな時間が刻々と過ぎていく。
懐中時計を見ると針は1を指していた。
自分が部屋を出てからもう3時間は経過している。
眠い。けれど、このままレイチェルを放っておく訳にもいかない。