ALONES
―領主、と言う事はこの街、マルマーナの領主なのだろう。
彼女たちの話を聞いていた分によれば、評判はあまりよくはなさそうだ。
そんな男、領主は「ケッ」と唾を吐き散らし、何を言っているのかさっぱり分からないまま、そこら一帯に当たり散らしながら去っていく。
「おいおい、代金は!」
と店主は彼を呼び止めるが、無駄だと感じたのだろう。
「あの野郎。」とため息を吐き、重い腰を下ろすと、割れた皿や地面に散らばった残飯の回収を渋々始めた。
「運が悪かったわね、」
「まぁあの人の事だから。」
周りの人々は口々に同情の言葉を彼に投げかけるもの、決して手伝おうとはしない。
…皆、他人に関心を持たないのか?
すれ違う人々を見ながら考える僕にだって、良心はある。
けれど幼い頃から“郷に入っては郷に従え”の精神が沁みこんでいる僕には、彼に声をかけるという一歩が中々踏み出せない。
でも、
キーラは違った。
彼女は堂々と店主に歩み寄り、その机に丸ごと残され置き去りにされていた料理をジッと見つめた。
そしてあろうことか。
徐に手でグシャッと掴むと…何の躊躇いも無く口の中に放り込んだのだ。
「――キーラ…!?」
思わず悲鳴を上げてしまった。
咄嗟に二人分のトランクを必死に抱え、覚束ない足取りで、されど大慌てで彼女を連れ戻しに向かうが、店主は割れた皿を持ったままポカーンと彼女を見つめ、動かない。