『無明の果て』
第五章  『休暇』
眠れぬ夜が静かに暗闇をぬけようとしている。



何度も電話に手がのびたけれど、それは私の意地みたいなものが止めさせ続けた。



出かける時間になるまで連絡が来なければ、私の休暇は大きな失望に包まれる事になる。



一行が隣にいることに慣れてしまった今、ひとりでいた時の寂しさより、いるはずの人がいない今の時の方が何倍もつらい。




コーヒー豆をカラカラと挽きながら、一人旅もいいかなぁ なんて強がっても、それは何の意味も持たないのだ。




コーヒーを一口だけ飲み、ため息をついた。



結局、眠れぬまま過ごしてしまった夜を冷静に見つめ返す事は、今の私にはとても解決出来そうにはない難題になってしまった。




そして時計が五時を過ぎた時、メール音が部屋中に響いた。




待ち続けたはずなのに、件名がないメールは開けるのがとても怖い。




“これから帰ります。
連絡しなくてごめんなさい。
帰ったら話します。”


優しく“おかえり”と云うのは、これから聞かなくてはならない事柄に、似つかわしくない言葉のような気がする。



そんな太っ腹な、大人の女性には程遠い、この沸き上がってくる感情は、経験したことのないものだ。



静かにドアが開いた。


「寝てる?」



一行はいつものように明るく言ったつもりだろうが、愛しかったはずの彼の顔に少し、変化を見たように感じた。



「怒ってる?

みんなに麗ちゃんのこと聞かれて、呼べとか言うから、よけいに電話出来なかった。

ごめんね。」



「私ね、急ぎの仕事が入ったの。

昨夜も準備であまり寝てないんだ。」



「えっ」



「ごめんね。

温泉行けそうにないから、キャンセルしてくれる?」



どうしてそんなすぐバレる嘘をついたのか、自分でもわからない。

でも動揺した心を隠し


「せっかくのプレゼント、無駄にしてごめんね。」



「どうしても行けないの?

麗ちゃんのこと、怒らせちゃったんだ。
どうしたらいいのかなぁ。」

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