わらって、すきっていって。

そのままえっちゃんに別れを告げて、教室を出た。

正確には、出ようと思って、ドアを開けた。


「――う、わっ!」


ドアを開けたその向こうに、本城くんがいて、倒れそうになる。

彼はどうやら向こう側から教室に入ろうとしてきていたらしい。お互いがお互いに向かって歩いていたので、もう少しでぶつかるんじゃないかってくらいの至近距離だ。

おまけに中途半端に上を向いていたせいで、いちばんに彼の口元が目に飛びこんできて、めまいがした。

だって、あの日のキスのことを思い出してしまうから、本城くんの口元は見ないようにしていたのに。


「びっ……くりしたー。ごめん、安西さん、大丈夫だった?」


顔を覗きこんでくるふたつの瞳から逃げるように、ぎゅっとうつむいた。


「わ、わたしこそごめんっ。大丈夫です!」

「ほんと? ごめんな、びっくりさせて」

「いやいや、わたしも確認してなかったし……」


正直、いまこうして本城くんと話すのは少しきつい。それでなくとも普段から緊張するというのに。

あのときのこと、本城くんはどう思っているの。どうしてあんなことしたの。

どうしても訊きたいけど、なんとなく訊きたくないその疑問が、頭と心に渦をつくって、気持ちをぐちゃぐちゃにかき乱していくみたい。


「……ごめん、わたし帰るね! お疲れさまっ」


うつむいたまま、本城くんとドアのあいだをすり抜けて、教室を出た。顔は上げることができなかった。


あのキスに特に意味はなかったのかもしれない。ただ、いい感じのシチュエーションに、いい感じの沈黙が落ちてしまったから。

だから、なんとなく、あんなことになっただけなのかも。

きっとわたしじゃなくてもよかったんだ。たまたまあのとき、あそこに居合わせたのがわたしだったというだけで。

きっと、そうだ。

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