わらって、すきっていって。

……お母さん、いま、なんて?


「早く出てあげなさいね。外すっごく寒いんだからー」


お母さんはそう言うと、なんともいえない変な笑みを浮かべて、そのまま部屋を去っていった。

いやいや。名前、なんて? ホンジョウナツキって? それってもしかして、本城夏生くん?

わたしを振った、あの、本城くんかな?


そんなバカなことがあるわけない。スマホを確認してみても、特に連絡がきているわけでもなかった。

サプライズ? どっちの意味で? もしかしたら、わたしを戦闘不能にさせるくらい、もう一度こっぴどく振りにきたのかもしれない。最近ちょっと立ち直ってきたところだし。

でも、わざわざ誕生日に?

いや、むしろ、誕生日だからか。いやでも、本城くんがそんな性格悪いことするわけないよね。


なんなんだ、いったい。わけが分からないよ。

それでも髪と顔を整えてから玄関に向かうあたり、わたしも相当な重症だ。


「――はい……?」


彼は本当にいた。ドアの向こう側で濃紺のダッフルコートに身を包んでいた彼は、わたしの顔を確認するなり白い息を吐いた。


「安西さん。ごめん、こんな時間に急に来たりして」

「いや……あの、それは、全然」

「誕生日だろ、きょう」


うそ、覚えていてくれたんだ。やっぱりそれを分かってわざわざもう一度振りにきたんだろうか。


「俺が言うのもなんだけど……おめでとう、18歳」


でも、それでも。好きなひとから言われるおめでとうは、こんなにも、特別な響きなんだね。

本城くんはやっぱりずるいひとだ。悔しいよ。振られてもやっぱり、どうにも好きだよ。
< 173 / 197 >

この作品をシェア

pagetop