わらって、すきっていって。
……お母さん、いま、なんて?
「早く出てあげなさいね。外すっごく寒いんだからー」
お母さんはそう言うと、なんともいえない変な笑みを浮かべて、そのまま部屋を去っていった。
いやいや。名前、なんて? ホンジョウナツキって? それってもしかして、本城夏生くん?
わたしを振った、あの、本城くんかな?
そんなバカなことがあるわけない。スマホを確認してみても、特に連絡がきているわけでもなかった。
サプライズ? どっちの意味で? もしかしたら、わたしを戦闘不能にさせるくらい、もう一度こっぴどく振りにきたのかもしれない。最近ちょっと立ち直ってきたところだし。
でも、わざわざ誕生日に?
いや、むしろ、誕生日だからか。いやでも、本城くんがそんな性格悪いことするわけないよね。
なんなんだ、いったい。わけが分からないよ。
それでも髪と顔を整えてから玄関に向かうあたり、わたしも相当な重症だ。
「――はい……?」
彼は本当にいた。ドアの向こう側で濃紺のダッフルコートに身を包んでいた彼は、わたしの顔を確認するなり白い息を吐いた。
「安西さん。ごめん、こんな時間に急に来たりして」
「いや……あの、それは、全然」
「誕生日だろ、きょう」
うそ、覚えていてくれたんだ。やっぱりそれを分かってわざわざもう一度振りにきたんだろうか。
「俺が言うのもなんだけど……おめでとう、18歳」
でも、それでも。好きなひとから言われるおめでとうは、こんなにも、特別な響きなんだね。
本城くんはやっぱりずるいひとだ。悔しいよ。振られてもやっぱり、どうにも好きだよ。