わらって、すきっていって。

「霧島にはほんとに感謝してる。いろいろ見失って、自分がどうするべきなのか、どうしたいのか分かんなくなってた俺に、大切なことを気付かせてくれた」

「……うん」

「だから蹴りをつけようって思った。美夜とのこととか、とにかく全部。だから、美夜ともいろいろ話した」


パンケーキを食べたあの日、本城くんをとらないでと言った美夜ちゃんのことを思い出す。彼女は笑っていたけれど、たぶん、その余裕の笑顔の下に大きな不安を抱えていた。そういう声だった。

だからきっと、美夜ちゃんも本城くんをとても好きなんだと思う。

ふたりにどんな歴史があるのか、ふたりがどんなことを話したのか、わたしには分からない。

でもそれって、わたしが知らなくてもいいことだ。だから、本城くんが語ろうとしないなら、わたしは黙っておこう。


「蹴りは、ついたんだ。全部。ちゃんと清算して、整理もできた。あとは伝えるだけだって、結構前から思ってた。でもさ、なんとなくどうしても、ずっと安西さんに話しかけられなくて。もし、もう嫌われてたらって思うと、なんかすげーこわくて。情けないけど。

そんな感じでくすぶってたら、いつの間にか、安西さんの誕生日がきてた」


話すならきょうしかないと思った、と。本城くんは真剣な声で続ける。

なんとなく顔を上げて、彼のほうを見た。目が合う。彼が少し息を吐く。わたしも息を吐いた。白い息はやがて透明になって、黒い夜空に消えていく。


「……くま、好き?」

「えっ?」


くま? いったいなんのことだろう。


「俺の誕生日、安西さんすげー美味いマフィンくれたろ。だから俺もなんかあげたいって思ったんだけど……好みとか知らねーし、なにがいいのか全然分かんなくて。でも安西さん、かわいいもの好きかなって、勝手な印象だけど」


言いながら、彼は持っていた紙袋をがさがさと漁る。
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