わらって、すきっていって。

本城くんは少し困った顔をして、わたしを見下ろしていた。ちょっとうかがうみたいな顔だ。

重たそうな、その濃紺のダッフルコートに手を伸ばしたかったけれど、すんでのところで我慢した。いまは触れちゃいけないって、なんとなく思った。


「……本城くん。K大、合格したって。ちーくんが言ってた。おめでとう」

「え? あ、うん。そういえばそうだった。……うん、ありがとう」

「わたしね、N大志望なんだけど。センターまであと1か月半しかないのに、まだD判でね」


つまり、いまのわたしって、すっぽんなわけで。もちろん本城くんは、頭上でお上品に輝いているあのお月さまだ。

わたしの声に耳を傾けながら、本城くんが不思議そうに首をかしげた。

少しの沈黙が落ちる。彼が抱えているテディベアをそっと受け取った。ふかふかだ。気持ちいい。それに、とってもかわいい。


「……あのね、本城くん。わたしね、まだ、まだね……」

「……うん。待ってる」

「え……」

「安西さんが悩む気持ち、なんとなく分かるよ。大切なことだから、ちゃんと考えて、ゆっくり答え出してほしい。俺、それまでずっと、待ってるから」


ああ、このひとは本当に、どこまで優しいんだろう。


D判だからとか、センターが近いからとか。そういう理由があって返事に悩んでいるわけじゃない。受験なんか関係ない。

本当は、いますぐにでもその腕を掴んで、引き寄せて、わたしも好きですって、ふつつかものですがよろしくお願いしますって、言いたい。


でも、わたしはまだ、そうできるほど素敵な女の子じゃないから。

月にはなれなくてもいい。でも、すっぽんよりはちょっとましな女の子になりたい。


「……うん。あのね、N大、がんばるよ、わたし」


目標はなんだっていい。ただ自分に自信が欲しい。

それで、胸を張って。

今度こそ、笑って、好きって言いたいの。

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