わらって、すきっていって。


「――ばっかじゃない」


えっちゃんは心底信じられないという顔をして、わたしをじっと見つめながら、ストローでココアをかきまわした。ぐるぐる、ぐるぐる。渦は大きく深くなっていくし、速すぎて、目がまわりそうだ。

ていうか手元を見て、お願い、えっちゃん。


「いやあ……ね。バカなのかも」

「かもじゃなくてバカだから。保留ってなに? どうした? あんたそんな余裕あったっけ?」

「ないんですよねえ……」


本城くんに誕生日プレゼントをもらってしまったこと。好きだと言ってもらえたこと。そしてそれを保留にしてしまったこと。

あらいざらい話すと、えっちゃんはびっくりするほどわたしをボロクソに言った。バカだのアホだのノロマだの。そこまで言いますかと。


それが、美味しいパンケーキを食べながらなんだから、もっと嫌になる。

放課後、わたしがえっちゃんを誘ったのは駅前のパンケーキ屋さんだった。前に美夜ちゃんと来たところだ。


「べつに本城と付き合ってようが付き合ってなかろうが、受かるもんは受かるし、落ちるもんは落ちるんだよ」

「分かってるけど……問題はそこじゃないっていうか」

「好きなんじゃないの、本城のこと」

「……好き、です」

「だったらなにをそんなに悩んでんだか。わっかんないなあ」


えっちゃんはわざとらしい大きなため息をひとつ吐いて、おもいきりココアをストローで吸った。やがてズコッと音をだしたグラスを眺めて、少ないよと、彼女は低い声で言った。

こわい。
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