わらって、すきっていって。
みるみるお皿から消えていくアラビアータを眺めていると、右側からえっちゃんにわき腹を小突かれた。
「あんた、いつまでぼけっとしてんの?」
「へっ?」
「ミヨに話があるんでしょう」
それを聞くなり、くちびるを赤いソースで染めた美夜ちゃんの目だけがこちらを向く。それでもむぐむぐと口を動かし続ける彼女は、なんだか小動物みたいで、美少女とは関係なくちょっとかわいかった。
「なーに?」
アイスティーで口のなかをさっぱりさせて、お手拭きで口の周りを丁寧に拭いて。小動物から美少女に変身した美夜ちゃんが、ふてぶてしくそう言い放った。
さすがにちょっと怯む。だってやっぱり美少女なんだもん。しかも強い。
ごまかすためにオレンジジュースに手を伸ばすと、えっちゃんに「あんこ」と強く言われてしまった。
「もしかして小町ちゃん、なっちゃんと付き合い始めた?」
「えっ?」
「あれ、あたり?」
あたりでは、ないんだけど。
もごもごと、情けなく口ごもるわたしを見て、彼女は「やっぱりー」と言う。いや、違う。付き合ってはいない。早く訂正しないと。
「こ、こくはくっ。されましたっ」
声が裏返ってしまった。しかもちょっと大きな声だった。近くのお客さんもちょっとこっちを見ているし。恥ずかしい。消えたい。