わらって、すきっていって。
美夜ちゃんは頼んだものを全部平らげるなり、そそくさと帰っていってしまった。もっと話したかったような気もするけれど、もうわたしと話すことなんてなにもないって。ちょっと怒った顔でそんなふうに言われたら、返す言葉が見つからないよ。
「わたしやっぱり美夜ちゃんに嫌われてるのかなあ……」
帰り道、思わずえっちゃんにそうこぼすと、彼女は盛大に笑った。
「そんなこともないんじゃない?」
「でもウザイって言われたよ。しかも2回も。聞いてた?」
「あー。あはは、でもあんこ、あれはうざかったよ、ぶっちゃけ」
「え!? ひどくない!? えっちゃん!?」
えっちゃんは大丈夫だと笑うけれど、正直、結構傷ついている。だって、人生においてウザイとか言われたの、たぶんはじめてだもん。
ああ、思い出すだけでショック。
「わたしってダメダメだなあ。えっちゃんの片想いも全然知らなかったし」
「それはまあ、あたしが言わなかっただけだから」
「ちなみに誰なの? あ、でも結婚してるってことはわたしの知らないひとかなあ」
後半はひとり言みたいにしゃべったつもりだった。でも、右側を歩く彼女は一瞬だけ黙って、それから小さな声で言った。
「……科学の、折原(おりはら)」
「え。折原って……もしかして、かなちゃん?」
どちらからともなく歩みを止めていた。えっちゃんの顔を見ると、いつもまっすぐ前を向いているその瞳が、きょうはしゅんとしていて、どうにも愛おしく思えてしまった。