お嬢様になりました。
父さんの目が鋭く細められ、険しい表情へと変わった。


こんな父さんの顔を見るのは初めてだ。



「玲、それはどういう意味だ」

「どういう意味も何もない。 葵が海堂と婚約してるからって、仲良くしない理由にはならないって事」



今はまだ言えない。


誰にも渡したくない程、触れさせたくない程、葵の事が好き過ぎて堪らないという気持ちは。


父さんの事だ、本当の事を言えば強引にでも俺と葵を合わせない様にするだろう。


勝手に仕事を詰めるとか、もしくは留学させるとか……俺たちを合わせない様にする手段なら色々ある。



「分かっていると思うが、宝生院さんとの過剰な付き合いは慎みなさい」

「……一応頭には入れておくよ」



早くこの場から立ち去りたくて、俺はドアに向かった。


苛々する。



「玲」



リビングから出て行こうとする俺を、母さんが引き止めた。



「何?」



顔だけ向け返事をすると、母さんがニコッと笑った。



「今度宝生院さんを家に連れてらっしゃい」

「佐和!?」

「母さん!?」



父さんと兄貴の声が重なった。


母さんは昔からマイペースだ。


俺は母さんのそういうところが似たのかもしれない。



「何よ、二人ともー。 煩いわね、別にいいじゃないの。 友達を家に連れてくるなんて普通の事じゃない。 玲、ちゃんと連れてくるのよ?」

「……分かった」

「玲ッッ!!」



父さんの怒気を含んだ声を無視して、俺は早々にリビングを後にした。





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