お嬢様になりました。
俺も急いで温室を出た。


だけどもう葵の姿はなかった。


急にどうしたってんだよ。


わけわかんねぇ。


帰るっつってたし、とりあえず靴箱に向かってみるか。


生徒がいない廊下を全速力で走った。


落ち着かねぇ。


嫌な予感がする。



「ダメだよッッ!!」



葵の声……。


たどり着いた靴箱。


そこで目にしたのは、抱き合っている葵と東條の姿だった。



「玲ッ離してッッ!!」

「嫌だ」



何してんだよッッ!!


東條の野郎をぶん殴ろうと、足を一歩踏み出した。



「一人で抱え込まないでって言ったよね? 俺が側にいるって言ったよね?」

「…………」

「それなのにどうして一人で苦しむの?」

「っ……」



葵のすすり泣く声が静かな靴箱に響いた。


肩を震わせ、泣いている。


東條はそんな葵の体をしっかりと抱きしめていた。


何だよこれ……どういう事だよ……。


東條と視線がぶつかり合い、俺たちの間に沈黙が流れた。


その間、葵のすすり泣く声が妙に耳に響いていた。





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