お嬢様になりました。
「はぁ……」



あれから数日が過ぎた。


相変わらず葵は俺に話をする気はないらしい。


普段通りだ。


気がかりなのは、日に日に葵の顔色が悪くなっているという事。


病気?


そんな考えが過ったが、そう決めつけられるだけの材料はない。


自室で一人で居ても落ち着かず、無駄にソワソワしてしまう。


全部葵のせいだ。


俺がこんなに考えてやってんのに、あいつは俺が何にも気付いてないと思って何食わぬ顔で過ごしやがって。


今日だけで何回ため息が漏れたかわかんねぇよ。



「あークソッ!! あのバカ、俺のこのモヤモヤどうしてくれんだよ!!」



頭をガシガシかいていると、一台の車が敷地内に入ってくるのが窓越しに見えた。


客?


時計に目を向けると、夜の九時を回ったところだった。


こんな時間に誰だよ。


まぁどうせオヤジ宛だろうし、オヤジもお袋もいないから使用人が追い返すだろう。


椅子に座り、抽斗を開けた。


中にしまってあるプリクラを手に取り、少しの間眺めた。


ピタッと寄り添う様に葵と東條が並んでいる。


何度見ても腹が立つ。


でもこうなったのは自業自得……そう思うと更に腹が立つ。


ーコンコンコン。


ドアがノックされ、俺は慌ててプリクラを抽斗の中にしまった。



「何だ」

「失礼致します。 隆輝様、お客様がお見えでございます」

「俺に?」

「こんばんは、隆輝さん」



そう言って使用人の後ろから顔を覗かせたのは、橘だった。





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