お嬢様になりました。
「お前、何しに来たんだよ」

「そんなに怖い顔しなくてもいいでしょう? 隆輝さんに会いたくて堪らなかったの」



どんだけ自分勝手な奴だよ。


って、俺も人の事言えねぇか。



「只今お飲物をお持ち致します」

「いらないわ。 隆輝さんとゆっくり話がしたいから、誰もこの部屋に近付かない様にして頂戴」

「何勝手な事言って……」

「お願い。 今日ちゃんと話をさせてくれたら、もうこんな勝手な事しないわ」



橘の真剣な瞳は、俺の体を射抜きそうな程力強かった。


しょうがねぇな……。



「俺が呼ぶまで誰も部屋には近付けるな」

「畏まりました」



使用人は深々と頭を下げると、速やかに部屋から出て行った。


そういえば、部屋に女を入れるのは橘が初めてだな。


何で葵じゃなくてお前なんだよ。


ついついそんな文句が口からポロッと出てしまいそうだった。



「ありがとう」

「話ってなんだよ」

「初めて会ったのは、一年前の今くらいの時期だった」

「あ?」



こいつ何言ってんだ?


意味わかんねぇ。



「会ったというか、私が一方的に見つめていただけ。 恥ずかしくて、隆輝さんに声をかける事ができなかったの」





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