お嬢様になりました。
橘は昔を懐かしんでいる様な目をして微笑んだ。


それは今まで見た事がないくらい穏やかで、柔らかな笑みだった。



「両親に連れられて行ったパーティーで、隆輝さんを見掛けて素敵な人だと思ったわ。 その日お家に帰って直ぐに、両親に貴方の事を聞いたわ。 話を聞いて益々惹かれたの」

「わりぃけど、俺にはいつのパーティーの事やらサッパリわかんねぇよ」

「いいの。 言ったでしょう? 私が一方的に見つめていただけだって……」



だったら何でそんな悲しそうな顔をすんだよ。


俺にどうしろっていうんだ。



「そして隆輝さんとの婚約の話を両親が持ってきてくれた。 夢の様な出来事で、隆輝さんにお会いするまで信じられなかったわ」

「そんな風には見えなかったけどな」

「ふふっ、あの時は隆輝さんを目の前にして、緊張のあまり固まってしまったの。 お家に帰ってとっても後悔したわ」



だから初めて会った時と今ではこんなに印象が違うのか。


初めて会った日は殆ど橘の声を聞いていない。


主に喋っていたのは橘の父親だった。


俺も乗り気じゃなかったから、殆どオヤジに喋らせてたけどな。





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