お嬢様になりました。
熱のこもった潤んだ瞳で俺を見上げる橘。


下着姿になり、露わになった真っ白な肌に、ほんのり赤みがさしている。



「代わりでもいい……隆輝さんの心を少しでも癒す事ができるなら、それでいいの……私の事を宝生院さんだと思って抱い……」

「ふざけんなッッ!!」



怒鳴っても怯む事なく視線を逸らそうとしない。


こいつの想いは本物なんだと思った。


今の俺なら分かる気がした。


橘がどれだけ強くて、どれだけ悲しい想いをしているのかが。



「そんな事をしても、俺はお前を好きになる事はない」

「それでも私は隆輝さんの側に居たい。 せめて隆輝さんが幸せに笑える日がくる迄の間でいいの……。 そしたら私は身を引くわ」

「お前はバカかよ。 んな事したら、余計惨めな想いすんの分かってんだろ?」

「自分でも何故こんな事をしているのか分からないの。 頭では分かっていても、気持ちは止められないって事なのかもしれないわ。 でも、それが恋というものでしょう?」



橘の言うとおりかもしれない。


頭では分かっていても、気付けば気持ちを相手にぶつけてしまう。


その所為で俺は何度葵を泣かせただろうか……。


悲しい想い、辛い想いもたくさんさせたかもしれねぇ。


俺はあいつに喜びや幸せ、楽しさを与えた事はあるんだろうか。


よくよく考えてみれば、ないかもしれない……。






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