お嬢様になりました。
俺は橘に背を向け窓の外に目を向けた。



「服を着ろ」

「っ……」



嗚咽を我慢する様な声が耳に届く。


女の涙は苦手だ。


落ち着かない気分になる。


そのくせ俺は葵を泣かせてばかりだ。



「っ!?」



突然背中に重みを感じ、腹に腕が回された。


今にも折れてしまいそうな程細い体は、震えていた。


伝わってくる振動に、少なからず胸が痛んだ。



「お願いっ……お願い隆輝さんっ、私っ……貴方の事が好……」

「言うなッッ!! それ以上は言うな……俺はお前の気持ちには応えてやれねぇ……」

「最後までっ言わせてくれ、ないなんて……酷、い人……っ」



声を漏らしながら涙を流す橘。


俺は声をかける事が出来なかった。


俺が中途半端に優しくしなかったら、こいつはここ迄苦しまなかったかもしれねぇ。


だから慰めたりはしない。


優しく抱きしめたり、声を掛けたりもしない。


どんどん小さくなる泣き声はようやく止まり、静かになった橘の腕を掴み、そっと離れた。


振り返ると橘は俯き目を伏せていた。



「車を用意させる。 玄関までは使用人に案内させるから、着替えたら部屋を出ろ」

「…………」



俺は一人先に部屋を出て、使用人に指示を出した。


葵に会いたい……。


そう思いながらも、今会えばあいつを壊してしまいそうで、少し気持ちを落ち着けようとバスルームへ向かった。





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