お嬢様になりました。
学校で橘と話す事はなくなった。


それでも橘からの視線は、感じずにはいられなかった。


俺と橘の雰囲気が変わった事には周りは気付いてるだろう。


口に出して直接聞かれたわけじゃねぇが、雰囲気的にそう感じる。


体育が終わり、教室に戻っていると、カフェの自販機の前に立っている葵の姿を見付けた。


なんだあいつ?



「ボーッとした面して何突っ立ってんだよ」

「ッッ!?」



葵は肩をビクッと震わせ、勢いよく振り返った。


怯えた様な目をして、瞳を揺るがせている。



「はー……」



葵はホッとした顔をすると、唇を震わせながら息を吐いた。



「何なんだよ」

「何でもない。 ちょっとビックリしただけ」

「買わねぇのかよ」

「え、あっ、買うよ!!」



葵はアイスティーのボタンを押して、自販機からペットボトルを取り出した。


最近のこいつはやっぱり変だ。


目の下のクマも相変わらず。


葵の顔に手を伸ばすと、葵が一歩後ろに下がった。


今俺の事避けやがったのか?


東條とは抱き合ってたくせに、俺には触れられたくねぇって事かよ。


こいつはやっぱり東條がいいんだな……。


怒りよりも虚しさが胸に広がっていく。





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