お嬢様になりました。
葵が気まずそうに床に視線を落とした。


届かなかった手を下ろすと、グッと力がこもった。



「今週の土曜、何してんだよ?」

「な、何で?」

「空いてんなら俺に付き合え」

「付き合えって……何処に?」

「何処でもいいだろ」

「よくない。 家でゆっくりしたい気分だから……外出はちょっと……」



ずっと床に視線を落としている葵は、俺と目を合わせようとしない。


そこまで嫌われる様な事したかよ?


胸の痛みが増していく。


気が狂いそうな程、苦しくて堪らない。



「なら土曜お前の家に行く」

「え!?」



ようやく顔を上げた葵の瞳は動揺していた。


俺が顔をしかめると、葵は眉尻を下げ表情を曇らせた。



「夕食作れ」

「……私が?」

「そう、お前が。 夕方家に行く」

「……分かった」



いつもの明るい葵からは想像も出来ない程、元気のない声。


無理させてんのは分かってる。


それでも、どうしても二人で話がしたかった。



「教室に戻るぞ」



そう言って歩き出した俺に着いてくる気配がなく、首を捻り葵を見た。


ペットボトルを握りしめたまま俯いている葵。



「何してんだ、行くぞ」

「私保健室行くから隆輝一人で戻って」

「あ? おいっ!!」



葵は俯いたまま俺とは反対方向に走って行ってしまった。


あいつマジでどうしたんだよ……。





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