お嬢様になりました。
無言で食べていると、視線を感じて目線を上げた。


一瞬葵と目が合ったが、直ぐにそらされてしまった。



「あ? 何だよ」

「……別に何でもない」

「言いたい事があるなら言えよな」

「何でもないって言ってんじゃんっ!!」

「っっ!?」



ビックリした……。


怒鳴る事ねぇだろ。


何でもないなら、何でそんな仏頂面で食ってんだよ。


葵にばれないように、葵の顔を盗み見ていたら、仏頂面がほんの一瞬寂しそうな顔になった。


もしかして……。



「葵」

「何よ」



頬が緩み、笑いが零れそうになるのを必死に堪えた。


俺視線を合わせ様としない葵が可愛かった。



「美味いんじゃん」

「え?」

「ビーフシチュー、美味いっつってんだよ」



顔を上げた葵の顔がみるみるうちに赤く染まっていき、とうとう堪えていた笑いが零れてしまった。



「何笑ってんのよっ!!」

「……っっ」

「もうっ!! 笑わないでよ!!」



目を潤ませ更に赤くなった葵の顔を、まともに見る事が出来なかった。


マジでヤバイ。


可愛すぎだろ。


こんなに笑ったのは久しぶりだ。


笑い過ぎて息ができねぇ。


俺が笑っている間、葵はずっとブーブー文句を言っていた。





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