お嬢様になりました。
「今から何すんの?」



食事を終え、食後のコーヒーを飲んでいると、葵が口を開いた。


何すんのって聞かれたら、別にする事はない。



「家ん中いてもする事ねぇし、ちょっと出掛け……」

「それは嫌!!」



和やかな雰囲気は一変し、気まずい空気が流れた。


最近様子が可笑しい時の葵だ。



「お前、何隠してんだよ」

「何も隠してないよ。 食べすぎてあんまり動きたくないから、外じゃなくて私の部屋で話そうよ。 ね?」



葵は笑顔で席を立つと、俺の手を掴み、有無を言わさず歩き始めた。


久しぶりに感じる葵の手の感覚。


やっぱり落ち着く。


それでもこの落ち着く手を、俺は手にいれる事は出来ないんだろうな。


お前は残酷だ。


俺の心を掻き乱したり、落ち着かせたり……無自覚でやっちまうんだからタチわりぃ。


俺はお前に何をされようと憎めない。


嫌いになれない。


見返りなんて求めない。


だから側にいてほしいと思うのは、俺のエゴなんだろうな。


歩くたびに揺れる葵の艶のある髪の毛さえも、愛しく感じる。


俺は葵の全てに嵌ってる。






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