お嬢様になりました。
ティーセットをのせたテーブルの前に腰掛けた葵は、カットレモンをつまみティーカップの中に落とした。



「飲まないの?」

「後で飲む」



部屋に二人きり。


男と部屋に二人きりだっていうのに、葵はリラックスしていた。


俺の事を信用しているのか、はたまた俺を男としてみていないだけなのか……それは分からない。



「ちょっ、何でベッドに座んの!?」

「別に汚してるわけじゃねぇんだから、何処に座ろうといいだろ」

「いいわけないじゃん!! ちゃんと椅子があるんだから椅子に座ってよ。 椅子が嫌ならそこのソファーにどうぞ」



不機嫌な顔で指差すところには、白のソファーが置かれていた。


どんな顔をされようと、動く気にはならない。


面倒くさい。



「はぁー……」



葵はわざとらしくため息をつき、椅子から立ち上がった。


そのまま俺の目の前まで歩み寄り、俺の手を掴んだ。



「ほら、早くあっちに座ろう?」



怒っているような顔をしながらも、声は優しかった。



「へッッ!?」



俺は葵の手をグッと引っ張り、一緒にベッドの上に倒れ込んだ。


葵の背中に腕を回すと、簡単に俺の腕の中におさまった葵の体。


首筋に顔を埋めると、大好きな葵の香りがした。





< 295 / 360 >

この作品をシェア

pagetop