お嬢様になりました。
無理して笑ってんのは混乱してるからなのか?


それとも、少しでも俺の事を好きだと思ってくれてるからなのか?


後者ならいいのに……そう思うと、この決断で本当に良かったのかと、今更ながら悩んでしまう。



「宝生院会長が日本に戻ってきたら、俺から話す」

「そうだね、私が言うよりその方がいいかも。 日本に戻ってきたら教えるね。 これでお祖父ちゃんに嘘つかなくていいんだと思うと、心が軽くなったよ」



本当にそう思ってんのか?


俺は今まで感じた事がないくらい、胸が引き裂かれそうな思いだってーのに……。



「お前はもう自由だ。 好きな男と好きな時に付き合え」

「そんな事隆輝に言われなくたってそうするよ!!」



嘘だ……俺以外の男に触れさせんな。


俺の側にいろよ。


喉まででかかった言葉をグッと飲み込んだ。


葵は東條が好きで、東條も葵の事が好きなんだ。


両想いの二人を邪魔する資格はない。


だからッこれ以上俺が葵を縛っていいわけがねぇんだ。


好きな女の笑顔を奪いたくないッ。



「じゃ、俺帰るわ」



葵に背を向け歩きだすと、ベッドが軋む音がした。



「隆輝……」



肩越しに後ろを見ると、葵が真っ直ぐに俺の顔を見ていた。



「婚約者じゃなくなっても、今まで通りだよね?」

「全部が全部今まで通りってわけにはいかねぇだろ。 “ただのお友達”になるんだからな」



自分で口にした友達という言葉に自分で傷付き、これ以上葵の顔を見ていられず、今度こそ葵の部屋を後にした。





< 298 / 360 >

この作品をシェア

pagetop