お嬢様になりました。
帰りの車の中は静かで、その静けさは俺の感情を鎮めるどころか高ぶらせた。


橘の想いを受け止められなかった俺。


そして、届かなかった俺の葵への想い。


橘、お前の気持ちを理解したつもりでいたけど、今ようやく死ぬほど理解出来た。


まさか自分がこんな気持ちを味わう日がやってくるとは、思ってもいなかった。


最初は俺にとって都合が良くて始めた関係。


葵の事を好きにならなければ、あいつが誰を好きだろうと、付き合おうと関係なかった。


あいつに好きな奴が出来なかったら、適当に丸め込んで仕事の為に結婚しただろう。


結婚相手として都合のいい女が現れるまでの仮の婚約者……だったはずなんだけどな……。


大誤算だったのは俺の気持ちか……。


初めて本気で好きになった。


お嬢様とは思えねぇくらい教養がなくて、しおらしくない女。


でも今まで出会ったどの女よりも綺麗で、温かい女。


橘がいなかったら、俺は葵を手放そうとは思わなかっただろう……たとえどんなに葵が俺の事を嫌っていたとしても、他に好きな奴がいたとしても。


以前の俺なら欲しい物は必ず手にいれていた。


それは自分が嫌ってる両親となんら変わりない行為。



「っ……」



マジかよ。


頬に雫が伝う感覚がして、思わず自嘲の笑みが零れた。


顔を雑に拭い、座席の背もたれにうな垂れる様に寄り掛かった。


俺はこの気持ちを消せんのか……?


最後に手料理なんて食べんじゃなかった。


葵、幸せになれ……窓から見える夜空に浮かぶ星を眺めながら、俺は柄にもなく星に願いを込めた。






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