お嬢様になりました。
荒木さんが部屋を出て行き、また華と二人きりになった。


荒木さんやお家の人たちとは、だいぶ打ち解けられたと思う。


それでもやっぱり華と二人でいる時の方が、気が休まる。



「この紅茶いい香りーっ。 ブルーベリーかな?」

「んー……多分」



ティーカップを鼻に近付けると、ブルーベリーの甘い香りがした。


お母さんたちと一緒に住んでた時は、こんな優雅な生活なんて考えられなかった。


食べ物に困る様な生活ではなかったけど、特別贅沢できる様な生活ではなかった。


くだらない事で喧嘩して、泣いて、ワガママ言って……それでもお婆ちゃん、お父さん、お母さん、四人で過ごす日々は幸せだった。


そこにお祖父ちゃんがいたら、もっと幸せだったんだろうな。


今は今で幸せだけど、それまでの幸せも私にとってはかけがえのない幸せ。



「ボーッとしてどうしたの?」

「なんかさ、ガラッと生活変わっちゃったなぁーって思って」

「そうだよね。 まさか葵が鳳学園に転校するなんて思ってなかったよ」

「本当だよねっ。 未だに場違いだなぁって思う時あるよ」



私たちは顔を見合わせてぷっと吹き出した。


私たちの笑い声は、暫くの間部屋に響き渡っていた。





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