殺し屋天使


つま先で小突けば彼は「ん゛……」と唸り声を上げてのろのろと起き上がった。


肩を揉みながら欠伸を一つする。




「…不眠症なんだよねぇ。」


「どの口でいってんねん。」



いつもダラダラと寝てばっかりいるくせに。

寧ろ、寝過ぎで体調不良なんじゃないだろうか。




「だから……熟睡デキナイんだって。」




それは彼の特異な体質の所為だ。


ニュートラルであっても周囲の気配は否応なく彼を襲ってくる。


感じるのは動く人の気配ばかりではなく、無機物や静止物であってもだ。


普通の人間が猛獣の気配をそこはかとなく感じるサバンナのド真ん中で熟睡デキナイのと一緒で、雑多と感じる気配の中、熟睡はデキナイ。


物心つく頃から、熟睡とは無縁―――

いっそ熟睡ってナニ?のレベルだ。



へぇ~…と人事のようにメフィスト。



「強力な睡眠薬でも処方してあげようか。」


「……遠慮しとく。」



それを薬で無理矢理熟睡したのだとしたら、起き抜けに反動のような不安に襲われる事必須。



熟睡の間受け入れなかった分、と言わんばかりに、気配が一気に襲って来て、気がフレそうな脳内ハーレーション。



過去やってみて、無駄なあがきは諦めた。



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