ドメスティック・エマージェンシー
玄関に上がるや否や「有馬ー?帰って来たのー?」と記憶と確かに合致する声が飛ばされた。

「江里子、婆さんは台所だ。行こうぜ。今そっち行くわー!」

コソッと私にだけ聞こえる声で言い、祖母に返事をした。
さほど重くなさそうな荷物を三つも持って有馬が先に歩いていく。

軋む木の床が懐かしい。
昔から大好きな大きな時計も健在だ。
この中で有馬は有馬の答えを見つけたのだ。

嬉しくなる。
祖母は偉大だ。

台所らしい前に着くと、有馬が手で制してきた。
釣られて立ち止まったのを確認すると、有馬が先に中へ入っていく。

手持ち無沙汰になり、持ってきたお土産の紙袋を抱える。

「婆さん、客だぜー」

「お客様?」

入ってこいよ、と有馬の愉快げな声を合図に足を一歩踏み込む。
床が緊張と共に音を立てた。






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