ドメスティック・エマージェンシー
アパートに着き、慌てて階段をかけ上がる。
何度も通った廊下を駆け抜け、ドアノブに手をかけて中に入った。

「ゼロっ!」

暗闇の中心がぐにゃりと動き始めた。
いつもは入らない光が何故か今日は入っているように見えた。

――仮面をつけていない。

写真じゃない、初めて見る彼の素顔に息を呑む。

何よりも美しかった。
芸術的な体、暗闇に溶け一筋の光を放つ瞳、月光に劣らず輝く肌、不気味に口角を上げられた唇……

体内から殺意や憎悪、寂しさを光として放っているように見えた。

「ゼロ……」

恐る恐る近付く。
彼の目前に行った瞬間――

「双子を見つけたんだ」

今までに聞いたことのない声が鼓膜を刺激した。






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