M i s t y
「寝たほうが良いわ……どこにも行かないから安心して」
「どうしてそんなことが信用できる?」
「さぁ 信用してもらうしかないわね……」
男がいきなり私の首を引寄せ、もう片方の手で胸を掴んだ。
互いの顔が間近に迫る。
「こんなことは元気になってからしてよ 怪我人と寝る気はないわ」
「ウェートレスのアンタも純情そうでいいが
今のアンタにはもっとそそられる 強気の女は嫌いじゃない」
品のない言いようではあったが、男の言葉は私を安心させた。
嫌いじゃないと言われたことで、私の気持ちはとても落ち着いた。
その夜、男にソファを与え、私は床に寝た。
互いの腕を紐で縛ったまま……
気の抜けない状況ではあったが、男が何か仕掛けてくるとは思えなかった。
翌朝、浅い眠りのあと起き上がると、男はすでに目を覚ましていた。
私を見ていたのだろうか、視線が絡み合う。
私の中のミホの部分がズキンと疼いた。
「……足の痛みはどお?」
「ジンジンする」
「腫れがひくまで動かない方がいいわ」
張り詰めた時間が流れていた。
何を犯したか知らないが、 間違いなく犯罪者である男と一日中部屋に
一緒にいるのだ。
外出も出来ず、したがって本部へ定時連絡もとれない。
電話線は部屋に入ったとき男によって切断されていた。
「アンタ携帯は持ってないのか? あの時も公衆電話にいたな」
「そう いまどき珍しいでしょう?
私 携帯って嫌いなの 束縛されてるみたいで」
危険な男と一緒にいるのに、私は妙に落ち着いていた。
この男が私に危害を加えるとは思えなかったのだ。
なぜかと聞かれれば答えようがない確信だった。
男と私の間にある空気は、犯罪者と人質を超えるものに変わっていた。
男の包帯を替える。
着替えを手伝う。
立ち上がるのに抱きかかえる。
私が男の体に触れても、もう拒絶することはなかった。
それどころか、立ち座りの際、不自由な体を支えるため、
躊躇うことなく私の手を求めた。
握る手に信頼が置かれ、互いを感じあった。