M i s t y


時折、男が私に質問する。 


家族は? 田舎があるのか 妹も美人なんだろうな 

男は? いないのか その性格じゃ男は近づかないだろう

殺風景だが趣味もなさそうだな? 余暇なお世話だって? 

ふん そりゃそうだ 


こんなことを聞いては、面白そうに相槌をうち楽しんでいるようにも

見えた。

そんなときの顔には、毎朝店で見せる人懐っこい顔が見え隠れしていた。


私達は危うくも奇妙な関係だった。

男は怪我の体を私に預ける。

私は逃げ出すこともなく男の面倒を見る。

時々軽口を叩きながら……



2日目の夜は、昨夜と同じようにソファと床に寝たが、腕の紐はなくなり

代わりに男の手が私の手を握っていた。

握られた手は、ほどけそうになるとしっかりと握り直し、眠りにつくまで

男の手の感触が残った。



翌朝、男が唐突に話し出し、私はたじろぐことになる。



「アンタ どこに所属している 

火事に見せかけたはずの爆破を知ってるってことは どこの諜報機関だ

検問で免許証を見せただろう 

架空の身分証明書を作れるほどの組織ってことか」


「なんのこと? 私はウェートレスよ」


「いまさらとぼけるな 

普通の店員が血のついたカバーを換えることを思いつくか?

拳銃を持ってる男に撃つなと注意するか? 普通は恐怖で怯えるもんだ

アンタ 修羅場を何回も潜り抜けてきたんだろうな……」


「……」


「俺はとんでもない女に拾われたようだな」


「拾ってなんかいないわ アナタが勝手に転がり込んできたんじゃない」
 


すべてを見抜かれていた悔しさと、別れが近いことを感じ、 

やり場のない感情に襲われた。

男を見据えていたが、怒りとやるせなさで涙が滲む。

腕をつかまれ、男が乱暴に私を抱き寄せた。

私達は激しいまでの接吻を交わしていた。

別れを惜しむように、互いの唇をむさぼった。


男は私を椅子に縛りつけ、キーホルダーから車の鍵を抜き取った。



「車はもらう 途中で車を乗り換えるから追っても無駄だ

アンタを縛ったところで たいした時間稼ぎにはならないだろうがな」


「傷がまだ治ってないのに……」


「そのうち治る」


「今朝 包帯を替えようと思ってたのよ……」



私の顎を右手でつまみ唇を重ねてきた。

さっきのキスとは別人のように、ゆっくりと唇を吸い上げていく。

そして、慈しむように左手で私の右の乳房を撫で上げた。



「怪我が治ったら 寝てくれるんだろう?」


「それまでアナタが逃げおおせたらね 毎日犯罪者の逮捕リストを見るわ」


「最後まで口の減らない女だ アンタ 本当の名前は? 

ふっ 聞いても無駄だな」


「澪……アナタは?」


「雄也だ……信じるか信じないかはアンタ次第だ」



そう言い残して、男は私の前から消えた。





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